「また定時か…」と部下の背中を見送るあなたのそのモヤモヤ、よく分かります。チームの成果に責任を持つ立場として、焦りや戸惑いを感じるのは当然のことです。しかし、その感情は、あなたのチームが次のステージへ進化するための重要なサインかもしれません。
結論から言えば、若手社員の「残業しない」という価値観は「わがまま」ではなく、チームの生産性を最大化するための貴重なヒントです。
この記事を読めば、若手社員の「本音」を正しく理解し、彼らの才能を最大限に引き出しながら、残業なしで成果を出すチームを作るための、明日から使える具体的な対話術と法的知識がすべて手に入ります。
なぜすれ違う?「残業キャンセル界隈」を生んだ、私たちと若手の“決定的なOSの違い”

田中さん、お気持ちは痛いほどわかります。私も昔は「なぜ定時で帰るんだ」「もっと仕事に熱意を持てないのか」と部下の背中を睨んでいた一人ですから。良かれと思って企画した飲み会に若手が全く参加せず、本気で「自分の人望がないのか…」と落ち込んだことも一度や二度ではありません。
しかし、ある時ふと気づいたんです。彼らはやる気がないのではなく、私たちとは根本的に異なるOS、つまり物事を判断するための基本的な価値観で動いているだけなのだと。
私たちの世代がインストールしてきたOSが「終身雇用」や「会社への忠誠」を前提としていたのに対し、彼らのOSの根幹には「タイムパフォーマンス(タイパ)」という概念があります。不安定で、個人のスキルがキャリアを左右する時代を生きる彼らにとって、時間は有限で貴重な自己投資のための資源です。
このタイムパフォーマンスという価値観が、「残業キャンセル」という行動を生み出している根本的な原因なのです。目的が曖昧なまま「とりあえず残業」することは、彼らのOSでは「リターンの見込めない悪質な投資」と判断されます。この若手社員との価値観のズレという問題を理解することが、すべての始まりです。
発想を180度変える。残業問題は「チームの無駄」を炙り出す絶好のチャンス

若手社員の価値観を理解した上で、次に必要なのは発想の転換です。結論から言えば、この「残業キャンセル界隈」という現象は、チームの生産性を阻害する根本的な問題、つまり「残業を前提とした非効率な業務プロセス」を炙り出す絶好の機会なのです。
考えてみてください。もし、定時内に全員が集中して業務を終えられる仕組みがあるなら、そもそも残業は発生しません。若手社員の「定時で帰りたい」という強い動機は、チーム全員で「どうすれば時間内に仕事を終えられるか?」を真剣に考えるための、またとない推進力になります。
この変革の鍵を握るのが、「心理的安全性」という概念です。「こんなことを言ったら怒られるかも」「非効率だと指摘したら空気が悪くなるかも」といった不安がなく、誰もが安心して意見を言える状態を指します。
心理的安全性が確保されたチームでは、若手社員は「お客様からのこの修正依頼、もっと効率的なやり方があります」「この定例会議、アジェンダを工夫すれば半分の時間で終わりそうです」といった、業務改善のアイデアを積極的に発言してくれるようになります。彼らのタイムパフォーマンスというOSが、チーム全体の生産性向上に貢献し始めるのです。
あなたのチームはどっち?生産性を左右する2つのサイクル

明日から実践!部下との信頼関係を築き、成果を最大化する3つのステップ
頭では理解できても、具体的にどう行動すればいいのかが一番知りたい点ですよね。ご安心ください。ここからは、田中さんが明日からすぐに実践できる具体的なアクションプランを3つのステップで解説します。
Step1: 「1on1ミーティング」で期待値を合わせる
まず着手すべきは、部下との定期的な1on1ミーティングです。これは、心理的安全性を構築するための極めて有効な手段となります。ただし、単なる進捗確認や雑談で終わらせてはいけません。目的は、個人のキャリア目標とチームの目標をすり合わせ、仕事へのエンゲージメント(熱意や貢献意欲)を高めることです。
以下の質問を参考に、部下の「OS」を理解することから始めてみてください。
- 「この会社で、どんなスキルを身につけていきたい?」
- 「今の業務を通じて、どんな時に『成長したな』と感じる?」
- 「もし何かチームの進め方で『もっとこうしたら良いのに』と思う点があれば、遠慮なく教えてほしいな」
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 1on1ミーティングでは、あなたが話すのは3割、部下が話すのが7割を目指してください。
なぜなら、多くの管理職が陥りがちな失敗は、良かれと思って自分の経験談やアドバイスを一方的に話しすぎてしまうことです。1on1ミーティングの主役はあくまで部下です。彼らの言葉に真摯に耳を傾ける姿勢こそが、「この人は自分のことを理解しようとしてくれている」という信頼感、すなわち心理的安全性の土台となります。
Step2: 「残業指示」の法的ルールを知り、毅然と伝える
次に、どうしても残業が必要な場合の対応です。ここで重要なのは、曖昧な「お願い」ではなく、労働基準法という法的根拠に基づいた、正当な「業務命令」として伝えることです。
労働基準法は、36協定の範囲内であれば、企業が従業員に残業を命じる権利を認めています。しかし、その命令には「業務上の具体的な必要性」が不可欠です。この労働基準法は、残業命令の「法的根拠」であると同時に、無制限な命令を許さない「制約」でもあるのです。
部下に残業を指示する際は、以下のOK例のように「なぜ今、あなたにやってもらう必要があるのか」を具体的に説明しましょう。
部下の納得感が変わる!残業の伝え方 NG例 vs OK例
| 観点 | ❌ NGな伝え方 | ✅ OKな伝え方 |
|---|---|---|
| 具体性 | 「ごめん、今日ちょっと残業お願いできるかな?」 | 「〇〇の障害対応で、本日20時までの緊急リリースが必要です。この部分は君が一番詳しいので、19時まで残って作業をお願いできないだろうか?」 |
| 必要性 | 「みんなやってるから、もう少し頑張ってよ」 | 「この作業が今日中に終わらないと、明日のクライアントプレゼンに間に合わず、チーム全体の評価に関わってしまうんだ」 |
| 配慮 | (予定を一切聞かずに)「これ、今日中にやっといて」 | 「急で申し訳ない。もし今日どうしても外せない予定があるなら、代替案を一緒に考えるから正直に教えてほしい」 |
Step3: チームで「残業ゼロ」を目指す業務改善を始める
最後のステップは、残業を個人の頑張りの問題ではなく、チーム全体の仕組みの問題として捉え、改善に取り組むことです。
- タスクの可視化: かんばんツール(Trello, Asanaなど)を使い、誰が何にどれくらい時間を使っているかを全員が見えるようにする。
- 非効率な会議の撲滅: すべての定例会議の目的を再定義し、アジェンダのない会議は即刻廃止する。
- 情報共有の仕組み化: 特定の人しか知らない「業務の属人化」をなくし、誰もが同じ情報にアクセスできる状態を作る。
これらの活動を始めることで、チームは「言われたことをやる集団」から「自ら考えて改善する組織」へと進化していきます。
H2-4: よくある質問 (FAQ)
Q1. 残業しない部下を、評価でマイナスにしても良いのでしょうか?
A1. 時間ではなく、成果と貢献度で評価するのが大原則です。定時内に他の人以上の成果を出しているのであれば、むしろ高く評価すべきです。ただし、正当な業務命令を理由なく繰り返し拒否する場合は、就業規則に基づき、協調性の観点から評価に反映させることはあり得ます。
Q2. チームの他のメンバーから不満が出ませんか?
A2. 可能性はあります。だからこそ、特定の誰かに業務が偏らないよう、タスクの可視化と負荷の平準化がマネージャーの重要な役割となります。残業している人が「偉い」のではなく、時間内に成果を出せる仕組みをチーム全員で作る、という共通認識を育むことが大切です。
Q3. 緊急のトラブル対応の場合はどうすれば?
A3. 社会人として、予期せぬトラブル対応が求められる場面があることは、1on1などを通じて事前に伝えておくべきです。その上で、実際に発生した際は、なぜ緊急なのかを丁寧に説明し、業務命令として明確に指示します。また、対応してくれたことへの感謝と、代休取得などのフォローを必ず行いましょう。
まとめ & CTA (行動喚起)
田中さん、ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
若手社員との間に感じていた壁の正体が、少し見えてきたのではないでしょうか。
最後に、この記事の要点を3つだけ、もう一度確認しましょう。
- 若者の価値観はOSの違い: 彼らの「残業キャンセル」は、わがままではなく「タイムパフォーマンス」を重視する合理的な判断です。
- 残業問題はチーム変革のチャンス: 若者の価値観は、残業を前提とした非効率な業務プロセスを見直す絶好の機会となります。
- 明日から始めるのは1on1での対話: すべての変革は、部下一人ひとりのOSを理解し、心理的安全性を築くことから始まります。
あなたはもう一人ではありません。かつての私もそうだったように、多くの管理職が同じ道を通っています。この新しいマネジメントのOSをあなたのチームにインストールし、自信を持って、若手という最高の才能たちを率いてください。応援しています。
さあ、まずは、次の部下との1on1で使える「対話シート」をダウンロードして、変化への最初の一歩を踏出しましょう。
[参考文献リスト]
- パーソル総合研究所: 「Z世代の働き方に関する調査」
- 厚生労働省: 「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」
- Gallup, Inc.: “State of the Global Workplace: 2022 Report”


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