「またレンタルのユニック車が手配できないのか…」
「予定通りに資材が届かないと、現場が止まってしまう」
現場を預かる責任者として、このような歯がゆい思いをしたことはありませんか?
そろそろ自社でユニック車を保有し、工期もコストも自分の手でコントロールしたい。そう考えるのは、経営判断として非常に正しい選択です。
しかし、ここで一つだけ警告させてください。
「せっかく買うなら、より高く届く4段ブームの方が便利だろう」
「とりあえず4t車を買っておけば間違いないだろう」
もし今、少しでもそう考えていたなら、一度立ち止まってください。その親切心が、現場では「現場に入れない」「荷物が積めない」という致命的な失敗につながる可能性があります。
私は元トラックディーラー店長として、カタログスペックだけを信じて購入し、後悔する経営者を数多く見てきました。
中小規模の建設現場において、最も投資対効果(ROI)が高く、確実に稼いでくれるスペック。それは「2tロング・3段ブーム・角足(差し違いアウトリガー)」です。
この記事では、カタログには載っていない「実質積載量」の罠と、失敗しない中古ユニック車選びの極意を、包み隠さずお伝えします。
この記事の著者
高橋 誠(たかはし まこと)
商用車活用コンサルタント / 元トラックディーラー店長
累計1,000台以上の商用車販売・架装相談を担当。「売る側」の論理ではなく、現場で「稼げる」実用性を最優先する「ぶっちゃけ」アドバイザーとして活動中。特に中小建設業のコスト削減と車両選定に定評がある。
なぜ「とりあえず4段ブーム」は失敗するのか?ユニック車選び「減トン」の罠
「2tトラックを買ったはずなのに、車検証を見たら最大積載量が1.6tしかなかった」
これは、ユニック車を初めて購入する方が最も陥りやすい失敗です。
なぜこのようなことが起きるのでしょうか?
それは、トラックの最大積載量が「引き算」で決まるからです。
ベースとなるトラック車両には、メーカーが定めた「車両総重量(GVW)」という限界値があります。そこから、車両自体の重さ、乗員の重さ、そして架装するクレーンの重さを引いた残りが、荷物を積める重さ(最大積載量)となります。
つまり、高機能なクレーンを選べば選ぶほど、クレーン自体の重量が増加し、その分だけ積める荷物の量が減ってしまう(減トン)のです。
特に注意が必要なのが、「4段ブーム」と「実質積載量」のトレードオフ(二律背反)の関係です。
「3段ブーム」よりも「4段ブーム」の方が、ブームが1本多い分だけクレーン本体が重くなります。さらに、ブームを支えるための補強材(サブフレーム)も強固にする必要があるため、架装重量はさらに増加します。
結果として、2t車ベースで4段ブームを架装すると、実質的な積載量は1.5t〜1.8t程度まで落ち込むことが珍しくありません。これでは、本来運びたかった資材や機材が一度に運べず、往復回数が増えてしまう恐れがあります。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: カタログの「吊り上げ能力」だけでなく、必ず車検証の「最大積載量」を確認してから購入してください。
なぜなら、多くの人が「クレーンの性能」ばかりに目を奪われ、「資材を運ぶトラックとしての基本性能」を見落としがちだからです。私は過去に、4段ブームにこだわった結果、現場で必要な型枠材が一度に積みきれず、結局2台で運ぶ羽目になった現場を見てきました。ユニック車はクレーンである前に、運搬車であることを忘れないでください。
狭小地・住宅街なら迷わずコレ!「2tロング×3段ブーム」が最強である3つの理由
では、中小規模の建設現場において、最もバランスが良いスペックは何でしょうか?
私の結論は、「2tロングボディ × 3段ブーム」です。
なぜ、あえて4段ではなく3段を、そして標準ではなくロングを推すのか。その理由は、「2tロング車」と「4t車」が競合関係にある中で、日本の住宅事情に最も適しているのが前者だからです。
1. 積載量の確保(減トンを最小限に抑える)
前述の通り、「3段ブーム」と「4段ブーム」は積載量においてトレードオフの関係にあります。
3段ブームを選択することで、クレーン本体重量を軽く抑えることができます。これにより、2t車ベースであっても、2tに近い積載量(約2t〜1.9t前後)を確保しやすくなります。この数百キロの差が、現場では「あと少し積めるかどうか」の決定的な違いとなります。
2. 狭小地での圧倒的な取り回し
「2tロング車」は、積載量を確保しつつも、車幅は「4t車」よりもスリムです。
4t車(標準幅でも約2.2m〜)では進入がためらわれるような住宅街の路地や、入り組んだ現場でも、2tロング車(車幅約1.9m〜)ならスムーズに入っていけます。現場に入れなければ、どんなに高性能なクレーンもただの鉄の塊です。
3. 必要十分な作業範囲
「3段では高さが足りないのでは?」と不安に思うかもしれません。
しかし、3段ブームの最大地上揚程(フックを巻き上げた時の高さ)は約8m〜9mあります。これは一般的な木造住宅の2階屋根部分に十分届く高さです。
3階建て以上のビル建設や、電柱の建柱作業などがメインでない限り、通常の資材搬入やプレカット材の荷揚げには3段ブームで事足ります。
3段ブーム vs 4段ブーム(2t車架装時)の実用性比較
| 比較項目 | 3段ブーム | 4段ブーム | 判定 |
| 最大地上揚程(高さ) | 約 8.7m | 約 10.0m | 高さ重視なら4段 |
| クレーン重量 | 軽い | 重い(+50kg〜100kg増) | 3段が有利 |
| 実質積載量 | 確保しやすい(減トン小) | 減りやすい(減トン大) | 3段が有利 |
| ブームのたわみ | 少ない | 多い(伸ばすと揺れやすい) | 3段が安定 |
| 価格(中古相場) | 比較的安価 | 高値傾向 | 3段が有利 |
古河かタダノか?中古車選びで「絶対に見るべき」3つのポイント

スペックが決まったら、次は具体的な車両選びです。
中古車市場には多くのユニック車が出回っていますが、ハズレを引かないために見るべきポイントは3つだけです。
1. メーカーは「オペレーターの慣れ」で選ぶ
国内のユニック車(積載型トラッククレーン)市場は、「古河ユニック(赤いクレーン)」と「タダノ(青いクレーン)」の2社が激しく競合しています。
性能面に大きな差はありませんが、操作レバーの配置やラジコンの挙動に違いがあります。
- 古河ユニック: アクセル操作とクレーン動作が連動する感覚が強く、直感的に操作しやすいと評価されることが多いです。
- タダノ: 動作が正確で、微調整が効きやすいと言われます。
重要なのは、「自社のオペレーター(運転手)がどちらに慣れているか」です。慣れないメーカーのクレーンは操作ミスを誘発し、事故のリスクを高めます。迷ったら現場の声を聞いてください。
2. アウトリガーは「角足(差し違い)」一択
アウトリガーとは、クレーン作業時に車体を安定させるために張り出す「足」のことです。
ここには「丸足(標準)」と「角足(差し違い)」という2つのタイプがあり、その形状と安全性には強い因果関係があります。
- 丸足(標準): 引き出してピンで固定するタイプ。張り出し幅が狭い。
- 角足(差し違い): 四角い筒がスライドして出てくるタイプ。張り出し幅が広く、踏ん張りが効く。
中古車選びでは、多少高くても絶対に「角足(差し違い)」を選んでください。
張り出し幅が広いということは、それだけ車体が安定し、転倒事故のリスクが下がることを意味します。特に地盤が不安定な現場や、重い荷物を遠くへ吊る際、この安定性が命綱になります。
🎨 デザイナー向け指示書:インフォグラフィック
件名: アウトリガー「丸足」と「角足」の安定性比較
目的: なぜ「角足」を選ぶべきなのか、視覚的に安定感の違いを伝える。
構成要素:
1. 左側(丸足): トラックから細い足が出ているイラスト。張り出し幅が狭く、重い荷物を横に振るとグラつくイメージ。
2. 右側(角足): トラックから太い四角い足がガッチリと広く張り出しているイラスト。地面を広く捉え、安定しているイメージ。
3. 注釈: 「張り出し幅の違い=安全マージンの違い」と記載。
デザインの方向性: 安全・安心を想起させる緑や青を使い、角足の優位性を強調。
参考altテキスト: ユニック車のアウトリガー比較。丸足よりも角足(差し違い)の方が張り出し幅が広く、転倒防止に効果的であることを示す図。
3. 中古車特有のチェックポイント
中古車を見る際は、以下の2点を必ず実車で確認してください。
- ブームのたわみ: ブームを最大まで伸ばした状態で、横から見て極端に垂れ下がっていないか確認してください。過負荷作業で酷使された車両はブームが歪んでいることがあります。
- ラジコンの動作: ラジコン付きの場合、全ボタンが反応するか、反応速度に遅れがないかを確認してください。ラジコンの修理・交換は高額(数十万円)になることがあります。
維持費と免許のリアル。2tと4t、経営視点でどっちが得か?
「2tロングが良いのはわかったが、将来を見越して4tの方が良いのでは?」
経営者としては、ランニングコストや法的な制約も気になるところです。
維持費の差は意外と小さい
実は、「2t車」と「4t車」の年間維持費(税金)の差は、それほど大きくありません。
自動車税と重量税を合わせても、年間で約2万円程度の差です。この金額差だけで4t車を諦める必要はありません。
最大の壁は「準中型免許(5t限定)」
維持費以上に経営上のボトルネックとなるのが、「免許区分」です。
2017年の法改正以降、普通免許で運転できるトラックの範囲は非常に狭くなりました。
- 2t車(車両総重量5t未満): 多くの現行普通免許(準中型5t限定)で運転可能。
- 4t車(車両総重量8t未満): 「中型免許」または「準中型免許(限定解除)」が必須。
若手社員や新規採用者が、入社してすぐに乗れるのは「2t車」までであるケースがほとんどです。4t車を導入する場合、ドライバーに免許取得費用を補助するか、採用のハードルを上げる覚悟が必要です。
資格取得は「セット講習」が賢い選択
ユニック車を扱うには、運転免許とは別に「小型移動式クレーン運転技能講習」と「玉掛け技能講習」の2つが必須です。
これらは相互に補完関係にある資格であり、多くの教習所では「統合講習(セット講習)」を実施しています。別々に受講するよりも日程が短縮され(約5〜6日間)、費用も抑えられるため、社員育成の際はセット受講を活用しましょう。
よくある質問(FAQ)
Q. フックイン(自動格納)機能は必要ですか?
A. 予算が許せば、絶対に「フックイン付き」をおすすめします。
フックイン機能がない場合、走行前にフックをワイヤーで固定する作業が必要になり、手間がかかる上にワイヤーを傷めやすいです。フックインがあればボタン一つで格納でき、作業効率と安全性が格段に向上します。
Q. ユニック車の車検は普通のトラックと同じですか?
A. いいえ、トラックの車検とは別に、クレーンの「年次点検」が必要です。
トラック本体は通常の車検(1年ごと)を受けますが、クレーン部分は労働安全衛生法に基づき、1年ごとの「特定自主検査(年次点検)」が義務付けられています。この検査済みステッカーがないと現場に入場できない場合があるため、必ず実施してください。
まとめ:現場で稼ぐのは「カタログ値」ではなく「実用性」
ユニック車選びで最も大切なことは、カタログに載っている「最大吊り上げ荷重」や「ブームの長さ」を競うことではありません。
「自社の現場に確実に入り、必要な量の資材を積み、安全に作業を終えられるか」。この実用性こそが、投資対効果を決める唯一の基準です。
- 4段ブームの誘惑を断ち切り、積載量を確保できる「3段ブーム」を選ぶ。
- 狭小地でも稼働できる「2tロング」を選ぶ。
- 安全のために「角足アウトリガー」を選ぶ。
この3つの基準を持って中古車を探せば、あなたの会社の利益を最大化する「稼ぐ一台」に必ず出会えるはずです。
自社ユニックがあれば、レンタルの手配に頭を悩ませる日々は終わります。工期もコストも、あなたの手でコントロールできる未来を手に入れましょう。
参考文献・情報源
この記事の監修者
監修:労働安全コンサルタント事務所 安全第一
本記事は、労働安全衛生法およびクレーン等安全規則に基づき、労働安全コンサルタント(機械部門)が技術的な記述の正確性を確認・監修しています。

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