スーパーの精肉コーナーで、ひときわ美しい霜降りの「トモサンカク」を見かけて、思わず足を止めてしまったことはありませんか?
「こんなにサシが入っていて美味しそう! でも、モモ肉だから硬くないかな?」「家で焼いて、脂っこくて食べられなかったらどうしよう…」
そんな不安から、せっかくの出会いを諦めてしまうのは本当にもったいないことです。実はトモサンカクは、焼き方のコツさえ掴めば、ヒレ肉並みに柔らかく、カルビのようにジューシーな「いいとこ取り」の部位なのです。
重要なのは、フライパンの中で「脂をコントロールすること」。
この記事では、元精肉店店長の私が、スーパーのパック肉を高級店の味に変える、プロ直伝の「失敗しない焼き方」を公開します。今夜の食卓で、家族から「このお肉、すごい美味しい! お店みたい!」という言葉を引き出しましょう。
[著者情報]
この記事を書いた人:なかじぃ
肩書き: 家庭料理研究家、研究歴30年
専門領域: とにかく料理なら何でもチャレンジ。特に特別な食材を使わず、家庭にある料理をしっかりと作る!サラリーマンNしまの毎日レシピで過去ブロガーとして活躍。
なぜ「トモサンカク」は当たり外れがあるのか? 部位の正体と「硬さ」の真実
まず、トモサンカクというお肉の正体を正しく理解しておきましょう。ここを知っておくだけで、失敗のリスクは大幅に減らせます。
トモサンカクは、牛の後ろ足の付け根にある大きな赤身の塊「シンタマ(モモ肉)」の一部です。通常、モモ肉といえば脂肪が少なく、しっかりとした歯ごたえがある赤身肉を想像するでしょう。しかし、トモサンカクはモモ肉の中にありながら、唯一網の目状に美しいサシ(脂肪)が入るという特異な性質を持っています。
牛1頭からわずか2〜3kgしか取れないこの希少部位は、関西ではその形状が火打ち石に似ていることから「ヒウチ」とも呼ばれています。
では、なぜ「硬い」という失敗が起きるのでしょうか?
それは、「サシが入っているから柔らかいだろう」と油断して、普通のステーキ肉と同じようにしっかり焼いてしまうからです。
トモサンカクのベースはあくまで「モモ肉(筋肉)」です。筋肉は加熱しすぎると繊維が収縮し、ゴムのように硬くなってしまいます。つまり、トモサンカクにおける焼き加減と硬さには明確な因果関係があり、焼きすぎ(Well-done)は厳禁なのです。
目指すべきは、筋肉が固まる手前の「レア〜ミディアムレア」。この焼き加減こそが、トモサンカクのポテンシャルを最大限に引き出します。
牛の部位図解とトモサンカクの特徴

科学が教える「脂を操る」焼き方。フライパンで失敗しない3つの鉄則
ここからは、私が料理教室で必ず伝えている「絶対に失敗しない焼き方」を伝授します。キーワードは「脂のコントロール」です。
トモサンカクの魅力である豊富なサシ(脂)は、フライパン調理においては諸刃の剣となります。溶け出した脂を放置すると、肉が自身の脂で揚げられる「揚げ焼き」状態になり、表面はギトギト、中はパサパサという最悪の結果を招くからです。
これを防ぐために、以下の3つの鉄則を必ず守ってください。
鉄則1:常温戻し(15分)で「生焼け」と「焼きすぎ」を防ぐ
冷蔵庫から出したばかりの冷たい肉をいきなり焼くのはNGです。中心まで火が通る前に表面が焦げてしまうか、中まで火を通そうとして焼きすぎてしまうかのどちらかになります。
調理の15分前には冷蔵庫から出し、肉の温度を室温に近づけておくことで、短時間で均一に火を通すことができます。
鉄則2:キッチンペーパーで「脂」を徹底的に拭き取る
これが最も重要なポイントです。焼いている最中に、トモサンカクからは驚くほどの脂が出てきます。
サシ(脂)とキッチンペーパーは、美味しいステーキを焼くための対立と解決の関係にあります。フライパンに出てきた余分な脂は、キッチンペーパーでこまめに、親の仇のように拭き取ってください。これにより、「揚げ焼き」を防ぎ、香ばしい焼き色をつけることができます。
鉄則3:余熱調理で肉汁を閉じ込める
フライパンの上で完全に火を通そうとしてはいけません。
表面に焼き色がついたら、すぐに皿に取り出し、アルミホイルを被せて休ませます。余熱調理は、直接加熱を減らし、肉の内部をジューシーに保つための必須手段です。この「休ませる時間」に、肉汁が繊維全体に行き渡り、極上の柔らかさが生まれます。
なぜなら、この点は多くの人が見落としがちですが、家庭のフライパンは底が浅く、溶け出した脂が肉にまとわりつきやすいからです。「脂を拭く」というひと手間だけで、仕上がりの脂っこさが劇的に解消され、高級店のような上品な味に変わります。この知見が、あなたの成功の助けになれば幸いです。
脂の拭き取り工程

実践!スーパーの「焼肉用カット」を最高に美味しく焼く手順
それでは、実際に焼いていきましょう。今回は、スーパーで最もよく見かける「焼肉用(厚さ5mm〜1cm程度)」のカットを想定して解説します。ステーキ用よりも薄いため、スピード勝負になりますよ!
準備するもの:
- トモサンカク(焼肉用)
- 塩コショウ
- 牛脂(なければサラダ油)
- キッチンペーパー(必須!)
- アルミホイル
手順:
- 常温戻し: 肉をパックから出し、皿に並べて15分放置します。この間に軽く塩コショウを振ります。
- フライパン予熱: フライパンを強めの中火で熱し、牛脂を溶かします。煙がうっすら立つくらいまでしっかり熱くするのがコツです。
- 表面を焼く: 肉を重ならないように並べます。ジューッといういい音がするはずです。
- 【重要】肉汁のサイン: そのまま動かさずに待ちます。肉の表面にうっすらと汗のような赤い肉汁が浮いてきたら、それが裏返す合図です。
- 裏面は10秒: 裏返したら、サッと10秒ほど焼くだけでOK。ここで脂が出てきたら、すかさずペーパーで拭き取ります。
- 余熱で仕上げる: すぐに皿に取り出し、アルミホイルをふわっと被せて、焼いた時間と同じくらい(約2〜3分)休ませます。
失敗しないトモサンカクの焼き方タイムライン

食べる直前が勝負! 柔らかさを倍増させる「切り方」と「タレ」
焼き上がったお肉、そのまま口に運ぶ前にちょっと待ってください! 最後のひと手間で、食感と味わいが劇的に変わります。
繊維を断つ「逆らい切り」で柔らかさ倍増
トモサンカクには筋肉の繊維が走っています。この繊維とカット方法は、食感を攻略するための重要な関係にあります。
食べるサイズに切る際、肉の繊維の方向をよく見てください。その繊維の流れに対して、包丁を垂直(90度)に入れる「繊維断ち」を行いましょう。これにより、口の中で繊維がほぐれやすくなり、驚くほど柔らかい食感になります。
脂の甘みを引き立てる「わさび醤油」
トモサンカクは脂の甘みが強い部位です。甘辛い焼肉のタレも美味しいですが、後半少し重たく感じるかもしれません。
私のおすすめは、「わさび醤油」や「おろしポン酢」です。わさびの辛味成分やポン酢の酸味が、濃厚な脂をさっぱりと中和し、肉本来の旨味を際立たせてくれます。市販のタレを使う場合も、レモン汁を少し加えるなどの工夫で、最後まで美味しくいただけますよ。
繊維を断つカット方法

よくある質問 (FAQ)
最後に、トモサンカクについてよくいただく質問にお答えします。
Q: ローストビーフにも使えますか?
A: はい、最適です! トモサンカクで作るローストビーフは、赤身の旨味と脂の甘みが両方楽しめて絶品です。ただし、モモ肉の中でも火が通りやすいので、温度管理は慎重に。初めての方は、まずは今回ご紹介した焼肉やステーキから試すことをおすすめします。
Q: 子供には脂っこくないですか?
A: サシが多いので、小さなお子様には少し重たく感じるかもしれません。その場合こそ、「脂の拭き取り」を徹底してください。また、食べる際に小さくカットし、わさび抜きの醤油やポン酢でさっぱりと食べさせてあげると、喜んで食べてくれることが多いですよ。
Q: スーパーで美味しいトモサンカクを選ぶコツは?
A: パックの中にドリップ(赤い汁)が出ていないものを選びましょう。また、サシ(白い脂肪)が粗い塊ではなく、細かく網の目状に入っているもの(小ザシ)の方が、口溶けが良くおすすめです。
まとめ & CTA
トモサンカクは、決して「プロにしか扱えない難しい肉」ではありません。
- 焼きすぎない(レア〜ミディアムレアを目指す)
- 出てきた脂は親の仇のように拭き取る
- 余熱でじっくり火を通す
この3つのポイントさえ押さえれば、スーパーのパック肉が、家族みんなが驚く「極上ステーキ」に変わります。
「硬かったらどうしよう」と怖がる必要はありません。今日の夕食は、ぜひトモサンカクをカゴに入れてみてください。そして、キッチンペーパーを片手に、脂をコントロールする楽しさを体験してください。
さあ、冷蔵庫からお肉を出して、常温に戻すところから始めましょう! 最高の夕食があなたを待っています。
参考文献リスト
- トモサンカクとはどこの部位?希少な”火打ち石”の味の特徴と美味しい焼き方を肉のプロが解説 – 格之進
- 牛肉の「トモサンカク」ってどの部位?味とおすすめの焼き方を解説! – トクバイニュース
- トモサンカク 適度な脂と良質な赤身の希少部位 – あか牛精肉販売所

コメント