新米と古米の違いは水分量じゃない?お米マイスター直伝「二刀流」使い分け術

「実家から送られてきたお米、まだ残っているのに新米の季節が来てしまった…」
「古米を早く食べきらなきゃいけないけど、やっぱり新米のツヤツヤしたご飯が恋しい」

そんなふうに、古米があることに対して少し「申し訳なさ」や「焦り」を感じていませんか?

実は、お米のプロである私たちから見ると、古米は決して「劣化したお米」ではありません。 むしろ、お寿司屋さんやチャーハンの名店では、新米ではなくあえて古米(熟成米)を指名買いすることさえあるのです。

この記事では、創業80年の米屋を営む私、米田健一が、古米を「新米級」に美味しく復活させる裏技と、料理に合わせて新米と古米を使い分ける「お米二刀流」の極意を伝授します。

読み終える頃には、キッチンの隅にある古米が、早く使いたくてたまらない「ご馳走」に見えてくるはずですよ。


この記事の著者

なかじ

創業20年「n-collection」初代目店主

サラリーマン時代からグルメ。水の味がわかる男。各地のコメをたべて美味しいお米を紹介します。


「新米は水少なめ」は間違い?意外と知らない本当の違い

「新米を炊くときは、水を少し減らす」
これは、お母さんやおばあちゃんから教わった、お米を炊く際の常識かもしれません。しかし、現在の精米技術においては、この常識は必ずしも正解とは言えなくなっています。

水分量の真実:出荷時はどちらも同じ「約15%」

驚かれるかもしれませんが、新米と古米の水分量は、精米されて袋詰めされる段階ではほとんど同じです。

農林水産省の農産物検査法やJAS法(日本農林規格等に関する法律)に基づき、お米の水分量は品質保持のために厳格に管理されています。新米であっても古米であっても、市場に出回る精米の水分量は、概ね14.5%〜15.0%の範囲に調整されているのです。

玄米の水分規格は15.0%以下と定められており、新米も古米も精米段階ではほぼ同等の水分値に調整されています。

出典: 米(農林水産省)

では、なぜ「新米は水っぽく、古米はパサつく」と感じるのでしょうか?
その真犯人は、「家庭での保存期間中に起きる乾燥」です。

誤解と真実:パサつきの原因は「家庭での乾燥」

新米と古米の水分量は出荷時には同じですが、家庭での保存環境によってその差が大きく開いていきます。

スーパーで購入したお米を、袋のままキッチンの下に置いていませんか?
精米されたお米は、野菜と同じ「生鮮食品」です。空気に触れる状態で常温保存していると、お米の水分はどんどん蒸発し、乾燥が進んでしまいます。つまり、古米がパサつくのは「古米だから」ではなく、「保存中に乾燥してしまったから」なのです。

このように、水分量というエンティティ(概念)と、家庭での乾燥という現象には、密接な因果関係があります。
「新米だから水を減らす」のではなく、「お米の状態に合わせて水加減を調整する」のが、マイスター流の正しい炊飯アプローチです。


あの独特な臭いが消える!古米を「新米級」に復活させる3つの魔法

「理屈はわかったけど、今ある古米の臭いやパサつきはどうすればいいの?」
そんな声が聞こえてきそうです。ご安心ください。ここからは、私が自宅で実践している、古米を劇的に美味しくする「復活テクニック」をご紹介します。

特別な道具は必要ありません。キッチンにある調味料を「ちょい足し」するだけで、古米は見違えるほどふっくらと炊き上がります。

魔法1:日本酒(大さじ1)で臭みを消し、ふっくらさせる

一番のおすすめは、炊飯時に日本酒を加えることです。
お米2合に対して、日本酒大さじ1杯を目安に入れてください。

古米と日本酒は、互いの欠点を補い合う最高のパートナーです。
日本酒に含まれるアルコール分が揮発する際に、古米特有の「ぬか臭さ」を一緒に持ち去ってくれます。さらに、日本酒の糖分がお米をコーティングし、ふっくらとした食感と自然な甘みを引き出してくれるのです。

魔法2:氷(1個)を入れて、甘みを極限まで引き出す

「えっ、氷を入れるの?」と驚かれるかもしれませんが、これはプロも使う裏技です。
お米を研いで水加減を調整した後、氷を1〜2個ポンと入れてから炊飯スイッチを押してください(その分、水加減は大さじ1〜2杯分減らしておきます)。

氷を入れることで炊飯器内の水温が下がり、沸騰するまでの時間が長くなります。
お米の甘み成分である「糖」は、アミラーゼという酵素がデンプンを分解することで生まれます。このアミラーゼが最も活発に働くのが40℃〜60℃の温度帯です。氷を入れて沸騰までの時間をゆっくりにすることで、アミラーゼが働く時間を稼ぎ、古米の甘みを最大限に引き出すことができるのです。

魔法3:はちみつ(小さじ1)で保水力を高める

冷めても美味しいご飯にしたいなら、はちみつの出番です。
お米2合に対して、はちみつ小さじ1杯を溶かして炊いてみてください。

はちみつに含まれるブドウ糖や果糖には、高い保水性があります。これが古米の組織に浸透し、水分を逃さないように守ってくれるため、時間が経ってもパサつきにくくなります。お弁当に古米を使う場合は、この方法が特におすすめです。

✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス

【結論】: まずは騙されたと思って、「日本酒大さじ1」と「氷1個」の合わせ技を試してみてください。

なぜなら、この2つは古米の二大悩みである「臭い」と「パサつき」を同時に解決してくれるからです。私も昔は「古米はどうやっても新米には勝てない」と思っていましたが、この方法で炊いた古米を家族に出したところ、「今日のお米、高いやつ?」と聞かれて驚いた経験があります。この知見が、あなたの食卓を救うはずです。


「白飯」だけが正解じゃない。古米だからこそ輝く「ご馳走」レシピ

ここまで「古米を新米に近づける方法」をお伝えしましたが、ここからは発想をガラリと変えましょう。
「古米は新米の代用品」ではありません。料理によっては「新米を超える主役」になれるのです。

粘りが強く香りが高い新米と、粘りが少なくパラっとしている古米。この特性の違いを理解し、料理に合わせて使い分けることこそが、お米マイスターが提案する「お米二刀流」です。

粘りの少ない古米は、汁気と油を吸う料理の「ベストパートナー」

新米でチャーハンを作って、ベチャベチャになってしまった経験はありませんか?
それはあなたの腕が悪いのではなく、お米の水分と粘りが多すぎたからです。

逆に、古米は粘りが少なく米粒がしっかりしているため、油や出汁(だし)を吸っても型崩れしません。
この「古米の特性」を活かせる料理こそが、古米の独壇場です。

お米マイスター直伝!新米 vs 古米「二刀流」使い分けリスト

特徴 新米 (New Rice) 古米 (Old Rice)
食感 もっちり、粘りが強い、柔らかい パラっとほぐれる、粒感がある、硬め
香り 新鮮な穀物の香り 控えめ(保存状態によっては古米臭)
吸水性 水分を多く含んでいるため吸いにくい 乾燥しているため、出汁や油をよく吸う
得意な料理 白飯、塩むすび、和定食
(お米そのものの味を楽しむ料理)
チャーハン、カレーライス、丼もの
(汁気や油と合わせる料理)
プロの活用例 高級料亭の白ご飯、お弁当 寿司店のシャリ、リゾット、パエリア

 

今夜はあえて古米で!おすすめ活用メニュー

  1. パラパラチャーハン:
    古米を使えば、プロのようなパラパラの仕上がりが簡単に実現します。古米の表面が油でコーティングされ、一粒一粒が口の中で踊るような食感を楽しめます。
  2. 絶品カレーライス:
    粘りの強い新米だと、ルーとご飯が混ざりすぎて重たくなりがちです。古米なら、サラッとしたルーとも相性が良く、お米の粒感とカレーの旨味をバランスよく味わえます。
  3. 本格リゾット・パエリア:
    スープの旨味をお米に吸わせる料理には、吸水性の高い古米が最適です。新米では出せない、芯のあるアルデンテな食感に仕上がります。

このように、古米とチャーハンやカレーといった料理は、互いの良さを引き立て合う「ベストマッチ」の関係にあります。
「古米しかない」と嘆くのではなく、「今日はチャーハンだから、あえて古米を使おう!」とポジティブに選べるようになれば、あなたはもう立派な「お米使い」です。


よくある質問:新米と古米を混ぜて炊くのはアリ?

最後に、店頭でお客様からよくいただく質問にお答えします。

Q. 新米と古米、混ぜて炊いてもいいですか?

A. 基本的にはおすすめしませんが、工夫次第で可能です。

新米と古米を単純に混ぜて炊く(ブレンドする)ことは、炊きムラの原因になります。
先ほどお話しした通り、家庭で保存された古米は乾燥しており、新米よりも水を吸うスピードが速いです。そのため、同じ水加減と浸水時間で炊くと、古米は芯が残り、新米はベチャっとしてしまうことがあります。

どうしても混ぜて炊きたい場合は、以下の手順を試してみてください。

  1. まず古米だけを研ぎ、水を吸わせる(30分〜1時間)。
  2. その後に新米を加えて研ぎ、通常通り炊飯する。

このように古米の浸水時間を長くすることで、吸水率の差を埋めることができます。

Q. 古米の保存はどうすればいいですか?

A. 密閉容器に入れて「冷蔵庫(野菜室)」が正解です。

古米の劣化(酸化)を止めるには、空気と熱を遮断することが重要です。
買ってきた袋のままではなく、ペットボトルや密閉できる保存容器に移し替え、冷蔵庫の野菜室で保管してください。これにより、水分の蒸発と酸化を最小限に抑え、美味しさをキープできます。


まとめ:古米は「劣化」ではなく「熟成」。二刀流で食卓をもっと豊かに

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
「古米=美味しくない」というイメージは変わりましたでしょうか?

古米は、決して新米の劣等生ではありません。
日本酒や氷を使って「新米級」に復活させることもできれば、チャーハンやカレーの主役として「熟成米」の個性を輝かせることもできる、可能性を秘めた食材です。

ぜひ今夜は、キッチンの古米を「邪魔者」扱いせず、「今日はどうやって美味しくしてあげようか?」とワクワクしながら料理に使ってみてください。
新米の季節だからこそ、新米と古米、それぞれの良さを楽しむ「お米二刀流」で、あなたの食卓がより豊かになることを願っています。

参考文献

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