夜、布団に入ると始まる、あの言いようのない足の不快感。眠りたくても眠れず、本当に辛いですよね。その症状、気のせいや疲れのせいではなく「むずむず脚症候群」という治療可能な病気かもしれません。
この記事では、多くの患者さんを診てきた睡眠専門医が、不安なあなたのために「今夜すぐにできること」と「明日専門医に相談すべきこと」を、どこよりも分かりやすく、具体的にガイドします。
読み終える頃には、ご自身の症状への正しい知識と、今日から実践できる具体的な行動プランが手に入り、解決への第一歩を踏み出せます。
これって病気?「むずむず脚症候群」の4つの特徴的な症状

「脚がむずむずして、じっとしていられない」「虫が這うような感覚がする」「動かすと少し楽になるけど、止めるとまた…」。もしあなたがこのような感覚に覚えがあるなら、それは「むずむず脚症候群(別名:レストレスレッグス症候群)」のサインかもしれません。
この症状は、意志の力ではどうにもならない、医学的な原因のある状態です。まずはご自身の症状が、専門的な診断基準でどのように考えられているか、客観的に確認してみましょう。
以下の4つの特徴にすべて当てはまる場合、むずむず脚症候群の可能性が高いと考えられます。
- 脚を動かしたくてたまらない、強い不快感があるか?
- (例:むずむず、かゆい、虫が這う、引っ張られる、じんじんする等)
- その不快感は、安静時に出現または悪化するか?
- (例:座っている時、横になっている時など)
- その不快感は、運動によって改善するか?
- (例:歩き回る、脚を伸ばす、さするなど)
- その不快感は、夕方から夜にかけて悪化するか?
- (日中より夜間のほうが症状が強い)
これらの特徴は、多くの患者様からお聞きする共通の悩みです。あなた一人だけが経験している特別なことではないので、ご安心ください。
なぜ私だけ?主な原因は「鉄分不足」と「神経の働き」にあります

では、なぜこのような不快な症状が起きてしまうのでしょうか。むずむず脚症候群の根本的な原因はまだ完全に解明されていませんが、現在の医学では、脳内の神経伝達物質であるドパミンの機能低下が関係しており、その背景には体内の鉄分不足(鉄欠乏)が大きく影響していると考えられています。
ドパミンは、体の動きをスムーズに調節する役割などを担っています。このドパミンを脳内で作るためには、鉄分が不可欠です。そのため、体内の鉄分が不足するとドパミンの働きが鈍くなり、脚の感覚をコントロールする神経に異常な興奮が生じ、あの不快な感覚を引き起こすのです。
特に、鈴木さんのような40代以降の女性は、月経や妊娠・出産、あるいは食事からの摂取不足によって鉄分が不足しやすいため、むずむず脚症候群を発症しやすい傾向にあります。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 鉄分不足を自己判断で補うため、安易に市販のサプリメントを大量に摂取するのは避けてください。
なぜなら、むずむず脚症候群の原因は鉄分不足だけとは限らず、腎機能の低下や他の疾患が隠れている可能性もあるからです。また、体内の鉄分が過剰になることも別の健康問題を引き起こします。まずは血液検査で「フェリチン」という貯蔵鉄の値を正確に把握することが、適切な治療への第一歩です。
むずむず脚症候群の原因(鉄分とドパミンの関係性)

【専門医が教える】「今夜できること」と「明日すべきこと」

症状の原因がわかっても、今まさに悩んでいる不快感が消えるわけではありません。ここからは、この辛い状況を乗り切るために、具体的で実践的な行動プランを「今夜できること」と「明日すべきこと」の2つのステップに分けてお伝えします。
Part1: 今夜、症状を和らげるための5つのセルフケア
まずは、薬に頼らずに症状を少しでも楽にするための応急処置です。ご自身に合うものを見つけて、試してみてください。
- 就寝前の軽いストレッチ
ふくらはぎや太ももの裏をゆっくり伸ばすストレッチは、脚の緊張を和らげ、症状の軽減に効果的です。ただし、やりすぎは禁物。気持ち良いと感じる範囲で10分程度行いましょう。 - 脚のクールダウンまたは温め
冷たいシャワーを脚にかけたり、逆に温かいお風呂で温めたりすることで、不快感が和らぐことがあります。どちらが心地よいかは個人差があるため、両方試してみてください。 - カフェインとアルコールを避ける
コーヒーや緑茶に含まれるカフェイン、そして寝酒としてのアルコールは、神経を興奮させ、むずむず脚症候群の症状を悪化させることが知られています。特に夕方以降は摂取を控えるのが賢明です。 - 鉄分を意識した食品を摂る
夕食や夜食に、ほうれん草や小松菜、あさり、レバーといった鉄分が豊富な食材を取り入れてみましょう。即効性はありませんが、長期的な体質改善につながります。 - 寝室の環境を整える
症状に意識が集中しないよう、リラックスできる音楽を聴いたり、面白い本を読んだりするのも一つの方法です。スマートフォンやテレビの強い光は脳を覚醒させてしまうため、就寝1時間前には見るのをやめましょう。

Part2: 根本解決のために明日すべきこと
セルフケアはあくまで対症療法です。むずむず脚症候群の根本的な解決と、穏やかな夜を取り戻すためには、専門家への相談が最も確実な道です。
- 何科を受診すべきか?
第一の選択肢は「睡眠外来」や「睡眠科」といった睡眠の専門家です。もし近くになければ「神経内科」を受診してください。これらの診療科が、むずむず脚症候群の診断と治療を専門としています。 - 病院で何をするのか?
まずは詳しい問診で、症状について具体的に聞かれます。その後、原因を特定するために血液検査を行い、体内の貯蔵鉄(フェリチン)の値などを調べることが一般的です。 - どのような治療法があるのか?
血液検査で鉄分不足が確認されれば、医療用の鉄剤を補充する治療が基本となります。鉄剤の補充だけで、症状が劇的に改善する患者様も少なくありません。それでも改善しない場合や、症状が非常に重い場合には、脳のドパミンの働きを補うお薬など、専門的な薬物療法が検討されます。
むずむず脚症候群について、よくあるご質問(FAQ)
最後に、患者様からよくいただく質問について、簡潔にお答えします。
Q. むずむず脚症候群は遺伝しますか?
A. はい、家族内に同じ症状を持つ方がいる場合、発症しやすい傾向があることが分かっています。約半数の患者様に遺伝的な要因が関係していると言われています。
Q. 妊娠中や授乳中でも治療できますか?
A. 妊娠は、むずむず脚症候群の一時的な原因となることがあります。治療については、お薬の使用に注意が必要なため、まずはかかりつけの産婦人科医と、睡眠の専門医の両方に必ず相談してください。自己判断での市販薬の使用は絶対に避けてください。
Q. この病気は治りますか?
A. これは、私が最もよく受ける質問です。この質問の裏には、「この不快感が一生続くのではないか」という深い不安があることを、私はよく理解しています。答えは、「原因に応じた適切な治療で、多くの場合、症状をコントロールし快適な生活を取り戻せます」です。完治が難しい場合でも、症状を大幅に軽減させ、睡眠の質を改善することは十分に可能です。
まとめ:一人で悩まず、正しい一歩を踏み出しましょう
この記事では、夜も眠れないほどの足の不快感、「むずむず脚症候群」について解説しました。
- あなたの症状は、気のせいや疲れのせいではありません。
- 原因の背景には、鉄分不足などが関係しています。
- まずは今夜できるセルフケアを試し、そして勇気を出して専門医に相談してみてください。
一人で悩まないでください。正しい知識を持ち、適切な行動を起こすことが、穏やかな夜を取り戻すための何よりの力になります。この記事が、あなたのその第一歩を後押しできれば、これほど嬉しいことはありません。
【参考文献リスト】
- レストレスレッグス症候群 / むずむず脚症候群 | e-ヘルスネット(厚生労働省)
- レストレスレッグス症候群(RLS) – MSDマニュアル家庭版


コメント