妊娠7ヶ月を迎えた佐藤さん、毎日の水分補給、本当にお疲れ様です。「コーヒーや緑茶はカフェインが心配だから控えているけれど、麦茶ならノンカフェインだから安心」——そう思って、何気なく麦茶を選んでいませんか?
実は、その選択は大正解です。しかし、ただ「カフェインが入っていないから」という消去法で麦茶を選ぶのは、非常にもったいないことなのです。
なぜなら、麦茶には妊娠中の悩みの種である「むくみ」や「冷え」を和らげる、隠れたパワーがあるからです。ただし、その効果を最大限に引き出し、かつ免疫力がデリケートな妊娠中の体を「菌」から守るためには、作り方にちょっとしたコツが必要です。
産婦人科で15年間、多くのプレママに栄養指導を行ってきた私が、あなたとお腹の赤ちゃんの健康を守るための「最強の麦茶メソッド」をお伝えします。今日から実践できるこのひと手間で、残りのマタニティライフをより健やかに過ごしましょう。
なぜ産婦人科医は「妊娠中に麦茶」を勧めるのか?
多くの産婦人科医や助産師が妊娠中の飲み物として麦茶を推奨するのには、医学的な根拠があります。ここでは、麦茶が持つ「カフェインゼロ」という安心感と、妊娠中の体に嬉しい「血流改善効果」について、専門的な視点から解説します。
文部科学省のデータが証明する「カフェイン0」の真実
まず、最も気になるカフェインについてです。緑茶や紅茶、ウーロン茶にはカフェインが含まれていますが、麦茶にはカフェインが一切含まれていません。
これは、文部科学省が公表している日本食品標準成分表(八訂)増補2023年によっても裏付けられています。
麦茶(浸出液)のカフェイン含有量は0mgである。
出典: 日本食品標準成分表(八訂)増補2023年 – 文部科学省
つまり、麦茶であれば、厚生労働省が定める妊婦のカフェイン摂取目安量(1日200〜300mg程度)を気にする必要がなく、安心して飲むことができるのです。
妊娠中の「ドロドロ血液」を救う成分、アルキルピラジン
しかし、麦茶のメリットは「ノンカフェインであること」だけではありません。妊娠中はホルモンバランスの変化や血液量の増加により、血液が固まりやすくなったり、血流が悪くなったりしがちです。これが、多くの妊婦さんを悩ませる「むくみ」や「冷え」、さらには血栓症のリスクにつながります。
ここで注目すべきなのが、麦茶特有の香ばしい香り成分である「アルキルピラジン」です。
アルキルピラジンには、血液の流動性を高め、血流を改善する効果(いわゆる血液サラサラ効果)があることが研究で明らかになっています。 このアルキルピラジンによる血流改善効果は、水や緑茶には見られない、麦茶独自の強みです。
麦茶の香り成分「ピラジン」が血流をスムーズに!
- ステップ1(飲用前): 血管内で赤血球が密集し、流れが滞っているイラスト(ラベル:妊娠中は血液が固まりやすい)。
- ステップ2(飲用後): 血管が広がり、赤血球がサラサラとスムーズに流れているイラスト(血液通過時間が短縮され、巡りが良くなる)。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: つわりで水が飲みにくい時こそ、少し濃いめの麦茶を試してみてください。
なぜなら、この点は多くの人が見落としがちですが、麦茶の香ばしさ(ピラジン)は、つわりの不快感を和らげ、水分摂取を助けてくれることがあるからです。さらに血流も良くなるので、一石二鳥ですよ。
「水出し」vs「煮出し」。妊婦さんに絶対おすすめなのはどっち?
「麦茶を作るなら、手軽な水出しで十分では?」
そう思う方も多いかもしれません。しかし、妊娠中のあなたと赤ちゃんのために、私はあえて「煮出し」を強くおすすめします。これには、味の違い以上に重要な「成分」と「安全」の理由があるからです。
煮出すことで「血液サラサラ成分」が最大化される
先ほど解説した血流改善成分「アルキルピラジン」は、大麦を焙煎し、加熱することによって生成・抽出が促進されるという性質を持っています。
つまり、やかんでしっかりと煮出した麦茶の方が、水出しで作った麦茶よりもアルキルピラジンが豊富に含まれている可能性が高いのです。せっかく麦茶を飲むなら、その健康効果を余すところなく受け取りたいですよね。
殺菌効果で安心を手に入れる
また、衛生面でも大きな違いがあります。水道水や容器には、微量の雑菌が含まれている可能性があります。「水出し」は加熱工程がないため、これらの菌がそのまま残ってしまうリスクがあります。一方、「煮出し」であれば、沸騰状態で加熱するため、多くの雑菌を死滅させることができます。
免疫力が通常よりも低下している妊娠中は、わずかな菌のリスクもできるだけ排除したいもの。その点でも、煮出し麦茶には大きなアドバンテージがあります。
妊婦さん視点で見る「水出し」と「煮出し」の違い
| 比較項目 | 水出し麦茶 | 煮出し麦茶 | 妊婦さんへの判定 |
|---|---|---|---|
| 作り方 | 水にパックを入れるだけ | お湯で煮出して冷ます | 煮出しは手間がかかるが価値あり |
| 香り・成分 | 香りは控えめ ピラジン抽出は穏やか |
香ばしさが強い ピラジン(血流改善成分)が豊富 |
煮出しの方が健康効果が高い |
| 衛生面 | 加熱殺菌なし 菌リスクがやや高い |
加熱殺菌あり 菌リスクを低減できる |
煮出しの方が安心 |
| おすすめ度 | △(手軽だが効果・安全面で劣る) | ◎(手間はかかるが母子に最適) | 煮出し一択! |
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 週末にまとめて作るのではなく、できれば「その日に飲む分」を毎日煮出すのが理想です。
なぜなら、煮出し麦茶は保存料が入っていないため、時間が経つほど香りが飛び、雑菌のリスクも少しずつ高まるからです。「毎朝のルーティン」にしてしまうと、意外と苦になりませんよ。
知らないと怖い!作り置き麦茶の「菌リスク」と正しい保存法
ここまで読んで、「よし、これからは煮出し麦茶を作ろう!」と思ってくださったあなた。本当にありがとうございます。でも、ここで一つだけ、絶対に気をつけてほしいことがあります。
それは、「煮出した後の冷まし方」です。
ここを間違えると、せっかく煮沸消毒した麦茶が、逆に雑菌の温床になってしまう危険性があるのです。
「常温でゆっくり冷ます」はNG!魔の温度帯とは
「熱いから、やかんのままコンロの上に置いて冷ましておこう」
これは、絶対に避けてください。
なぜなら、食中毒の原因となるウェルシュ菌などの雑菌は、30℃〜40℃前後の温度帯で最も活発に増殖するからです。常温でゆっくり冷ますということは、この「菌が増えやすい魔の温度帯」に長時間麦茶をさらすことを意味します。
エフコープ生活協同組合の商品検査センターが行った実験データをご紹介しましょう。
煮出した麦茶を30℃の環境で保存した場合、翌日には一般細菌数が大幅に増加した。一方、急冷して冷蔵庫(10℃以下)で保存した場合は、8日間経過しても細菌の増殖は見られなかった。
出典: 麦茶の保存方法による細菌の変化 – エフコープ生活協同組合 商品検査センター
このデータは、「常温放置」がいかに危険か、そして「急冷」がいかに有効かを物語っています。
産婦人科医も納得の「煮出し急冷メソッド」
では、どうすれば安全に麦茶を作れるのでしょうか? 答えはシンプルです。「煮出したら、すぐに氷水で急冷する」。これに尽きます。
具体的な手順は以下の通りです。
妊婦さんを守る鉄則「煮出し急冷」3ステップ
- ステップ1: しっかり煮出す
- ステップ2: 氷水で一気に急冷
- ステップ3: すぐに冷蔵庫へ
この「急冷」のひと手間を加えるだけで、食中毒のリスクは劇的に下がります。あなたと赤ちゃんの安全のために、ぜひ今日から取り入れてください。
妊娠中の麦茶に関する「よくある質問」
最後に、栄養指導の現場で妊婦さんからよくいただく質問にお答えします。
Q. 1日にどれくらいの量を飲んでいいですか?
A. 1.5〜2リットルを目安に、こまめに飲みましょう。
妊娠中は代謝が上がり、羊水の入れ替わりなどで通常よりも多くの水分を必要とします。一度にガブ飲みするのではなく、コップ1杯程度を1日の中で何度も分けて飲むのがおすすめです。
Q. 「ミネラル入り」と書かれた麦茶の方がいいですか?
A. こだわりすぎる必要はありません。
確かに麦茶にはカリウムなどのミネラルが含まれていますが、その量は微量です。ミネラル補給はあくまで「食事」が基本。麦茶は「ノンカフェインの水分補給」としての役割がメインですので、ミネラル含有量に神経質にならなくても大丈夫です。
Q. 生まれた赤ちゃんには、いつから麦茶をあげていいですか?
A. 生後1ヶ月頃から、薄めてあげることができます。
ただし、最初は白湯(さゆ)から始め、慣れてきたら赤ちゃん用の麦茶や、大人用の麦茶を2〜4倍に薄めたものをスプーン1杯から試してみましょう。
まとめ:今日から始める「煮出し急冷」で、安心のマタニティライフを
妊娠中の飲み物選び、もう迷う必要はありません。
麦茶は、カフェインゼロという「安心」だけでなく、アルキルピラジンによる血流改善という「健康」もプレゼントしてくれます。むくみや冷えが気になる妊娠後期、麦茶はあなたの強い味方になってくれるはずです。
ただし、その恩恵を安全に受け取るための条件はただ一つ。
「やかんでコトコト煮出して、氷水でキュッと冷やす」こと。
少し手間に感じるかもしれませんが、そのひと手間こそが、あなたとお腹の赤ちゃんの健康を守る愛情そのものです。今日から早速、香ばしい手作り麦茶で、リラックスしたひとときを過ごしてくださいね。
参考文献
- 日本食品標準成分表(八訂)増補2023年 – 文部科学省
- 食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A – 厚生労働省
- 麦茶の血流改善効果に関する研究 – カゴメ総合研究所・静岡大学
- 麦茶の保存方法による細菌の変化 – エフコープ生活協同組合 商品検査センター

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