「この子といつまで一緒にいられるんだろう?」
ふとそんな不安がよぎり、スマートフォンで検索して「平均寿命 5〜7年」という数字を見て、少し安心した経験はありませんか?
しかし、臨床の現場に立つ獣医師として、私はあなたに真実をお伝えしなければなりません。最新の統計データが示すモルモットの平均寿命は、私たちが思っているよりもずっと短いのです。
でも、どうか絶望しないでください。この「短い平均寿命」は、正しい知識とケアで十分に乗り越えられる壁です。
この記事では、ネット上の推測ではなく、獣医学的なデータと臨床経験に基づいた「推測」ではなく「計測」に基づく『愛モル長寿化プロジェクト』をご提案します。平均寿命の壁を越え、8歳、あるいはそれ以上の長寿を目指すための具体的な方法を、一緒に学んでいきましょう。
【現実を知る】モルモットの平均寿命は「約4年」という衝撃

まずは、目を背けたくなるような現実を直視することから始めましょう。多くの飼育書やウェブサイトでは「5〜7年」と書かれていますが、獣医学の世界で最も信頼される大規模調査の結果は、それとは異なります。
英国王立獣医科大学(RVC)が示す「4.03歳」という現実
世界最古の獣医科大学である英国王立獣医科大学(RVC)が主導するプロジェクト「VetCompass」が2024年に発表した研究データによると、飼育下のモルモットの平均寿命は4.03歳であることが判明しました。
このVetCompassの研究データは、実際の動物病院のカルテ情報を数千件規模で分析したものであり、一般的な飼育書の記述よりもはるかに信頼性が高い「平均寿命の根拠」となります。
また、性別による寿命の違いも明らかになっています。
- メス: 平均4.58歳
- オス: 平均3.74歳
メスの方がオスよりも長生きする傾向にありますが、それでも「5〜7年」という一般的な認識とは大きなギャップがあります。このギャップこそが、多くの飼い主さんが「突然死」と感じてしまう悲劇の原因の一つなのです。
一般的な認識と現実の寿命ギャップ

なぜ「突然死」するのか?長生きの鍵は「週1回の体重測定」

「昨日までは元気にご飯を食べていたんです」
診察室で涙を流す飼い主さんから、何度この言葉を聞いたかわかりません。しかし、獣医師の視点から言えば、それは「突然」ではなかった可能性が高いのです。
「元気そうに見える」は、モルモットの命がけの演技
モルモットは、自然界では捕食される側の動物です。弱っている姿を敵に見せることは、即ち死を意味します。そのため、彼らはギリギリまで不調を隠す「我慢の天才」としての本能を持っています。
飼い主さんが「見た目」で異変に気づいた時には、病気はすでに末期まで進行していることがほとんどです。ここで重要になるのが、「体重測定」という手段を用いた「早期発見」です。
体重測定は、不調を隠すモルモットの習性に対抗し、客観的な数値で健康状態を把握できる唯一の確実な予兆察知方法です。
数十グラムの減少が「SOS」のサイン
成体のモルモットであれば、体重はほぼ一定です。もし、先週と比べて体重が30g〜50g減っていたら、それは「誤差」ではなく「緊急事態」の可能性が高いと考えてください。
食欲不振(Anorexia)はモルモットの死因の上位を占めますが、完全に食べなくなる前には、必ず体重の減少が先行します。この段階で病院に連れて行くことができれば、助かる確率は飛躍的に上がります。
なぜなら、この点は多くの人が見落としがちですが、獣医師である私が自分のペットを守るために最も重視しているのは「高価なサプリメント」ではなく「1,000円の秤(はかり)」だからです。記録された数値の変化こそが、言葉を話せない彼らからの無言のメッセージなのです。
体重減少と病気の進行の関係図

寿命を縮める「二大死因」を食事で防ぐ

モルモットの命を脅かす病気の多くは、実は毎日の食事で予防することができます。特に注意すべきは「不正咬合(ふせいこうごう)」と「うっ滞(消化管うっ滞)」、そして「ビタミンC欠乏症」です。
1. 牧草(チモシー)こそが最高の予防薬
モルモットの歯は一生伸び続けます。繊維質の多い牧草「チモシー」を大量に噛むことは、歯を適切な長さに削り、不正咬合を予防する最も効果的な手段です。
また、牧草の繊維質は腸の動き(蠕動運動)を活発にし、命に関わる「うっ滞」を防ぎます。ペレットはあくまで栄養補助食であり、主食はあくまで牧草です。「牧草は食べ放題、ペレットは体重の数%」というバランスを徹底してください。
2. 体内で作れない「ビタミンC」を確実に届ける
人間と同様、モルモットは体内でビタミンCを合成できない数少ない動物であり、食事からの摂取が必須要件となります。
ビタミンCが不足すると、血管が脆くなったり、関節が痛んで歩けなくなったりする「ビタミンC欠乏症(壊血病)」を発症します。新鮮な野菜(パプリカやブロッコリーなど)や、モルモット専用のビタミンCサプリメントを毎日与えることが重要です。
理想的な食事バランスピラミッド

種類・性別によるリスクと対策(シニアケア・避妊手術)
モルモットは個体によってリスクが異なります。特に「メス」であること、そして「シニア期」に入ることは、ケアの方針を変える大きな節目となります。
メスのモルモットと卵巣疾患のリスク
メスのモルモットは、加齢とともに卵巣嚢腫などの卵巣疾患を発症するリスクが非常に高く、これが寿命を縮める大きな要因となっています。
お腹が張ってきたり、左右対称に毛が抜けたりしたら要注意です。予防的な避妊手術という選択肢もありますが、モルモットの手術は犬猫に比べてリスクが高いため、若くて体力があるうちに、エキゾチックアニマルに詳しい獣医師と相談しておくことを強くお勧めします。
4歳を超えたら「シニアケア」へシフト
平均寿命である4歳を超えたら、あなたの愛モルちゃんは立派なシニアです。
- 段差の解消: 足腰が弱くなるため、ケージ内の段差を減らす。
- 温度管理の徹底: 体温調節機能が衰えるため、エアコンでの管理をより厳密にする。
- 食事の見直し: 腎臓への負担を減らすため、カルシウムの少ない牧草に変えるなどを検討する。
よくある質問(FAQ)

診察室で飼い主さんからよくいただく質問にお答えします。
Q. モルモットのギネス最高齢は何歳ですか?
A. 14歳10ヶ月という記録があります。
これは夢のある数字ですが、人間で言えば150歳を超えるような例外的なケースです。まずは平均寿命の壁である「4歳」を健康に越え、目指せ「8歳」を目標にしましょう。
Q. 1匹飼いと多頭飼い、どっちが長生きしますか?
A. 相性次第ですが、ストレス管理が最重要です。
モルモットは社会的な動物ですが、相性の悪い相手との同居は強いストレスとなり、寿命を縮める原因になります。無理に多頭飼いをするより、1匹に対して飼い主さんがたっぷりと愛情を注ぐ方が、結果的に長生きする場合も多いです。
Q. ペット保険には入るべきですか?
A. 若いうちの加入を強く推奨します。
モルモットの医療費は、専門性が高いため高額になりがちです。特に不正咬合の治療などは生涯続くこともあります。高齢になってからでは加入できない保険が多いため、お迎えした直後の検討がベストです。
まとめ:今日から始める「愛モル長寿化プロジェクト」
モルモットの寿命は、運だけで決まるものではありません。
「平均4年」というデータは厳しい現実ですが、それはあくまで「適切なケアができなかったケース」も含んだ平均値です。
「推測」ではなく「計測」を。
「おやつ」ではなく「牧草」を。
あなたが今日から始める「週1回の体重測定」と「正しい食事管理」は、確実に愛モルちゃんの命を守る盾となります。
さあ、まずは今日、キッチンスケールで体重を測ることから始めましょう。そのノートに記される数字の積み重ねこそが、8年後の未来へ続く、愛する家族の命のカルテになるのです。
参考文献
- Demography, commonly diagnosed disorders and mortality of guinea pigs under primary veterinary care in the UK in 2019—A VetCompass study – PLOS ONE, 2024
- Guinea Pig Care – Royal Veterinary College (RVC)


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