閉店を決意された店主様へ。長年の営業、本当にお疲れ様でした。
30年もの間、雨の日も風の日もシャッターを開け続け、地域のお客様に愛されてきたお店を閉める。その決断の重さは、計り知れません。だからこそ、最後はトラブルなく、美しく幕を引きたいとお考えのことでしょう。
しかし、ニュースなどで耳にする「閉店商法」という言葉が気になり、「どう告知すればいいのか」「法律違反にならないか」と不安を感じてはいませんか?
「詐欺だと思われたくない」「最後まで誠実な店主でありたい」。そのお気持ちは痛いほどよく分かります。
この記事では、数多くの店舗の「終活」に立ち会ってきた専門家が、法的にクリーンで、かつ在庫を確実に売り切るための「完全閉店ロードマップ」を解説します。
法律を守ることは、難しいことではありません。それは、あなたが大切にしてきた「お客様への誠意」を形にすることと同じです。
お客様に「惜しい店をなくした」と感謝されながら、胸を張ってシャッターを下ろす準備を、一緒に始めましょう。
なぜ「閉店セール」は疑われるのか? 知っておくべき「閉店商法」の境界線

「あの店、また閉店セールやってるよ」。
街中でそんな会話を耳にしたことはありませんか?
多くの消費者は、「閉店セール」という言葉に対して、「本当に安いの?」「本当に閉めるの?」という強い警戒心を抱いています。
まず理解していただきたいのは、「閉店商法」という言葉自体は法律用語ではないということです。
しかし、閉店商法と呼ばれる行為の実態は、景品表示法という法律における「有利誤認表示」に該当する違法行為です。
有利誤認表示とは、実際の商品よりも著しく優良・有利であると消費者に誤解させる表示のことです。
では、お客様や法律は、どこを見て「怪しい(違法だ)」と判断するのでしょうか?
その決定的な違いは、「期限の真実性」にあります。
「完全閉店」と謳いながら、いつまで経っても営業を続けている。
これは、お客様の「もう買えなくなるから、今買おう」という焦燥感を悪用した裏切り行為です。
逆に言えば、「〇月〇日に必ず閉める」という事実があり、その約束を守る限り、堂々とセールを行うことは正当な商行為なのです。
お客様はここを見ている!「閉店商法」と「正しい閉店セール」の違い

✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 「閉店セール」という言葉を使うときは、必ずセットで「終了日(X月X日)」を明記してください。
なぜなら、多くの店主様が「まだ日程が確定していないから」と終了日をあいまいにしがちですが、これこそがお客様に「終わる終わる詐欺」と疑われる最大の原因だからです。日付が入るだけで、ポスターの説得力は劇的に変わります。
立つ鳥跡を濁さず。法的にクリーンな「完全閉店」3ヶ月ロードマップ
では、具体的にどのようなスケジュールで進めれば、法的に安全かつ効率的に在庫を処分できるのでしょうか。
私の経験上、閉店セールの期間は「最大でも3ヶ月」を目安にすることをお勧めしています。これ以上長くなると、お客様の緊張感が薄れ、「日常的な安売り」とみなされるリスクが高まるからです。
ここでは、閉店までの3ヶ月を「告知期」「セール期」「最終処分期」の3つのフェーズに分けた、理想的なロードマップをご紹介します。
閉店カレンダー(ガントチャート風)

1. 告知期(3ヶ月前〜)
この時期は、まだ派手な「セール」の文字は出しません。
まずは、長年支えてくださった常連様に、閉店の事実を伝えることが最優先です。
「閉店のお知らせ」というタイトルのハガキや、店内の張り紙で、静かに事実を伝えます。この段階で誠意を示すことが、後のセールでの集客に大きく響きます。
2. セール期(1ヶ月前〜)
いよいよ「完全閉店セール」の開始です。
ここで重要なのは、「完全閉店」という言葉と「閉店セール期間」の終了日をセットで告知することです。
この期間の限定性が、お客様の来店動機を強力に後押しします。
3. 最終処分期(2週間前〜)
最後は「売り尽くし」です。
利益よりも、商品をすべてお客様の手に渡すことを優先します。
この段階まで来れば、大幅な割引を行っても、これまでの経緯を知っているお客様は「最後だから」と納得して購入してくれます。
詐欺と呼ばれないための「価格表示」と「ポスター」作成術【4週間ルールの徹底】

閉店セールで最も法的リスクが高いのが、価格の表示方法です。
特に、「当店通常価格 10,000円 → 閉店特価 5,000円」のように、元値とセール価格を並記する二重価格表示を行う場合は、厳格なルールが存在します。
ここで必ず覚えていただきたいのが、景品表示法における「4週間ルール」です。
これは、「当店通常価格」として比較対照価格を表示するためには、過去8週間のうち、4週間以上の期間でその価格で販売されていた実績が必要であるというルールです。
つまり、「閉店セール直前に定価を吊り上げ、そこから半額にして安く見せる」という行為は、明確な違法行為(有利誤認表示)となります。
閉店セールにおける価格表示のOK例とNG例
| ケース | 表示内容 | 判定 | 理由 |
| NG例 | セール開始の3日前に1万円に値上げし、「1万円の50%OFF」と表示 | × 違法 | 4週間ルール違反。 販売実績のない価格を元値にしているため、有利誤認にあたる。 |
| OK例 | 過去2ヶ月間ずっと1万円で売っていた商品を、「1万円の50%OFF」と表示 | ◎ 適法 | 4週間ルール遵守。 過去8週間のうち4週間以上の販売実績があるため、正当な二重価格表示。 |
| OK例 | 元値を書かず、単に「全品5,000円均一」と表示 | ◎ 適法 | 比較対照価格がないため、二重価格表示の規制を受けない安全な方法。 |
「二重価格表示」を行う場合、比較対照価格(当店通常価格等)は、原則として、「過去8週間のうち4週間以上の販売実績」が必要です。
出典: 不当な価格表示についての景品表示法上の考え方 – 消費者庁
感謝を伝えるポスター作成のコツ
法的なルールを守った上で、お客様の心を動かすポスターを作るにはどうすればいいでしょうか。
テクニックは不要です。必要なのは「感謝」です。
「閉店セール」の文字よりも大きく、「30年間の感謝を込めて」と書いてみてください。
そして、「〇月〇日 完全閉店」という日付をはっきりと記します。
単なる安売りのチラシではなく、店主からの「最後の挨拶状」としてポスターを作ること。それが、結果としてお客様の信頼と共感を呼び、最高の結果につながります。
こんな時どうする? 閉店セールにまつわるQ&A

最後に、私が現場でよくご相談いただく、閉店セール特有の疑問にお答えします。
Q1. もし在庫が残ってしまったら、期間を延長してもいいですか?
A. 原則として、安易な延長は避けるべきです。
「好評につき延長」を繰り返すと、それこそ「閉店商法」とみなされるリスクが高まります。もしどうしても延長が必要な場合は、「テナント契約の都合で1週間だけ延長可能になりました」など、正当な理由を明記し、かつ極めて短期間に留める必要があります。
Q2. 閉店する予定がないのに「改装閉店セール」をするのはありですか?
A. 一時休業の期間が短い場合は、違法となるリスクが高いです。
「閉店」という言葉は、営業を終了するという強い意味を持ちます。数日の休業でリニューアルオープンするのに「閉店セール」と銘打つのは、消費者の誤認を招くため避けるべきです。「改装前の売り尽くしセール」など、実態に即した表現を使いましょう。
Q3. テナントの解約日が確定しておらず、終了日が書けません。
A. 確定するまでは「〇月下旬 閉店予定」といった表現に留めましょう。
嘘の日付を書くことは絶対にNGです。日付が確定した段階で、速やかに「〇月〇日閉店決定」と告知を更新することで、お客様に誠実さを伝えることができます。
まとめ:最後の一日まで、胸を張って商売を
ここまで、法的に正しく、そしてお客様に誠実な閉店セールの進め方について解説してきました。
- 閉店商法と疑われないために、必ず「終了日」を明記する。
- スケジュールは「最大3ヶ月」を目安に、段階的に進める。
- 二重価格表示をするなら、「4週間ルール」を絶対に守る。
法律を守ることは、自分自身を守るだけでなく、これまでお店を支えてくれたお客様との「思い出」を守ることでもあります。
「あのお店、最後までいいお店だったね」。
そう言っていただけるような、美しいフィナーレを迎えられることを、心より応援しております。
まずは今日、「閉店のお知らせ」のハガキを一通、下書きしてみることから始めませんか?
それが、円満な完全閉店への確かな第一歩となります。
📚 参考文献
- 不当な価格表示についての景品表示法上の考え方 – 消費者庁
- 事例でわかる!景品表示法ガイドブック – 消費者庁
- 広告・表示Q&A – 公益社団法人 日本広告審査機構 (JARO)


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